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床屋泣かせの私 [幼少時代]

昔々。ちょっと昔。

初めて床屋に行くことになった。

もう戦闘状態、泣きわめきの状態、パニック状態の私になっていた。

実は、幼稚園に通う頃私は白血病と診断され3か月入院退院。3か月入院退院を経験し絶対安静の日々を送っていたのだ。

「白衣」=「恐怖」の方程式が私のトラウマになってしまっていた。

散髪は今まで、はさみのようなバリカンのようなものでおばあちゃんに切ってもらっていたのだが。

何事も訓練ということで床屋へ行かねばならなくなってしまった。

応戦むなしく親に連れられて床屋についてしまった。

石鹸のにおいのような、また整髪剤のようなにおいが床屋のなかで漂っていた。

店員さんは初老の夫婦であった。

大きな何ともメカニカルな椅子が子供の体には大きすぎて補助いすが用意されていた。

もうこの時点で自分は震えあがってしまっていた。恐怖症トラウマ全開である。

「どう切りますか?」店主は親に尋ねた。

「短めに」と親は告げた。

エリマキトカゲになって補助いすに座った私はこの時点で割と覚悟ができていたのだが。

黙って店主は大きな手でまず霧吹きをし、おもむろにはさみで頭を切り始めた。

何とかこらえていたが、恐怖のあまり私は泣き出してしまった。またイヤイヤ(暴れるに近い)をしだしたのである。

店主は困った。

戦略を考えたらしい。床屋の隣は八百屋というかお菓子屋であった。

奥さんお菓子屋に森永のミルクキャラメルを二つ買いに行った。

床屋に戻って、半ばイヤイヤ怪獣となっていた私に森永キャラメルが猫に木天蓼か与えられた。

ピタッと泣き止んでしまった。

その間に散髪終了。

待っていた親は子供理髪料金を払った。しかし森永ミルクキャラメルにこの代金は請求されなかっ
た。

一箱の食べ残しと、まだ封を切っていない新品をもって親と手をつないで何事もなかったように家路についた。

すぐには気が付かなかったが、頭はスース―する。シッカロールの化粧のようなにおいはする。

散髪ミッションは騙されたように成功した。

その夜は三日月が出ていた。


そののち散髪というと決まってその床屋に通った。

小学校に上がり、転校もし中学に通い高校に通い大学で県外に出るまでほかの床屋に通ったことがなかった。

何事も最初が肝心。

そこでつまずかなかったので、長い長い付き合いになってしまったのだろう。



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